Little AngelPretty devil 〜ルイヒル年の差パラレル 番外編

   “名残りの花”
 

寒の戻りが引っ切りなしだったり、
はたまた、とんでもなく早かったり遅かったり。
年ごとにその訪のいようが随分と異なる春ではあるが、
その訪のいをはっきりと悟り堪能できるのは、
何と言っても桜の開花に他ならず。
野を山を淡い緋の花で一斉に埋めて満たして咲きそろう様は、
正に絢爛風雅にして、富貴な趣き。
天の慶雲も斯様の如しかと、幻想的な花霞に酔い、
涙雨に打たれる様を見ては胸を傷め、
世の無情になぞらえての様々に、歌なぞ詠まれもしたもので。
いっそ妖冶なまでのその存在感が頂点を迎えると、
悪戯な風が来ずとも散りゆくのもまた、儚くも美しく。
誰もがあれほど切望し、待ってましたと諸手を挙げて迎える割に、
桜の季節が過ぎてしまうのは あっと言う間で、

 “しかもその名残りを惜しむ者は稀だしな。”

少しずつしおれるのではなくの、凄絶にはらはらと。
とめどなく散る様こそ、
魂ごと意識を奪われそうになるほどに、
吸い込まれるような絶景ではあるけれど。
それが落ち着いてしまえば、
葉桜になりつつある梢からは、人の関心も薄れてしまい、
どこそこのツツジが盛りだとか誰某の邸の藤が麗しいだとか、
馬酔木やタチバナ、菖蒲など、
他の花へと注目も移る。
何より、若葉の緑がそりゃあ瑞々しくなり、
今度はその眼福へと視線を奪われてしまいもする。
そうなってしまうと、さしもの花王も新緑の中のせいぜい一部。
もはや、あの威勢は見られなくなり、
虫がつきやすいことから、
むしろ人からは敬遠されるほどというのが、

 「極端な話よの。」
 「? 何がだ?」

畏れ多くも頭の上から降って来た声へ、だが、
威嚇半分に睥睨するほどでもなくの、
何でもねぇよと投げやりな視線だけを向けたれば。
いかにも精悍で男臭いお顔が、
春の夜空を背景に、
かっくりこんと小首を傾げる。
あまりに無防備で、
いっそ稚
(いとけな)いくらいだったその仕草を目の当たりにし、

 「…。」

ふと、何か言いたくなった術師の君だったけど。
「…。」
その“何か”が上手く見つからなくて。
「〜〜〜。」
そんな自分の思わぬ不器用さに腹が立ち、そして。
「?」
腹が立ったむずがりまでもを、
あっさり見澄ましたらしき、

 「? どした?」

目ざとい相手へ、言葉の代わり。
伸ばした手が…つい。

 「…ってぇ〜☆」

手触りのいい頬を ぺちと叩いてる臍曲がり。
相変わらずですねぇ、蛭魔さん。
(苦笑)





  ◇  ◇  ◇



陽が落ちてからの思いつき。
邪妖の総帥殿の咒力による“遠歩”でもって、
夜陰に染まりし亜空をくぐり、
南へ下ってやって来たは。
飛鳥、藤原、平城といった地に栄えし、
昔日の都人らが愛したのだろう、吉野の山野辺の一角で。
川辺や道なりへと、整然と整えられたそれではないけれど、
それでも“千本桜”という異名があるほどに、
見渡す眺望のそこここを埋める緋白の様は絶景で。
眺めるだけで寿命が延びると言われているのも頷ける。
少しほど盛りを過ぎた頃合いではあれど、
まだまだその色合いは衰えてもおらず。
天から降りそそぐ月の蒼光に冴え映えて、
自ら光ってでもいるかのように、
その梢を飾る花の袖、艶に揺らして麗しい。

 「…そんでも、此処ももう。」
 「ああ。」

明日には散り始めるのだろうなと、
口にせずとも意が通じ。
それを惜しむよな言い方なんて、
微塵もしてはいないのに。
大きな手がお顔へ添えられ、
無言のまんま、頬や髪を撫でてくれるのが、
胸底から暖められるようで…ほっとする。

 「………。」

穹の天蓋が端から端まで、
藍に塗り潰されるほどもの更夜ともなれば。
昼間の陽気も跡形なく、すっかり冷めてしまっており。
時折吹きつける夜風もまた、
強さこそ冬の比ではない大人しさだが、
それでも結構な冷たさなので。

 「…。」

ちょっぴり堅いお膝の枕。
肘をついての手枕に疲れ、にじり寄っての有無をも言わさず、
頭をぱふりと乗っけたそれだったけれど。
此処も寒くなって来たのでと、
寝返りを打ち、腕を立てての身を起こせば。

 「…ほれ。」

肩から羽織りし厚手のすとーる、
前の合わせを割って“どうぞ”と懐ろを開く葉柱なのもいつもの呼吸。
そこへと身を寄せれば、長い腕が背後から回って来、
手際のよさから あっと言う間に、
温かな懐ろの深みへと掻い込まれてしまうのだが。

  ………あ。

ほんの刹那ではあるが、視野が闇に眩む瞬間があって。
葉柱が着ている衣紋が黒だからか、
それとも寄り添う自分が影を落としているのか。
見やった先に何も見えない、そんなところへ、
だのに何の警戒もなく、むしろ進んで身をゆだねる自分が、
思えば不思議で…ちょっぴり滑稽。
背中を任せるほどの信頼はあってもそれとは別物、
不意に抱き寄せられたりすると、反射的に蹴り飛ばすほど、
自分へ踏み込ませまいとする警戒は、彼が相手でも忘れぬはずが。
この闇の先にあると知ってる、その温かさに擦り寄りたくて、
こちらからも無防備に、胸を開いての身を寄せている。

 「…おいおい。」

もっとそばへと寄りたくて、
(あわせ)や小袖の合わせ目までも、
無理から左右に割り開くこともしばしばで。

  ―― そんなに寒いなら戻ろうか?

深い響きの声が問うのへ、いやだいやとかぶりを振って、
頬から髪から染み入る温みへ、安堵の吐息をしみじみつけば。

 「〜〜〜。」

おやや?
何だかもぞもぞと、落ち着きがなくなる懐ろの主だったりし。

 「…葉柱?」

どっか痒いのかと訊くようなお顔を見せれば、
それへも微かにたじろいでから、

 「いや…ちょっと、な?//////////」

言葉を濁す彼であり。

  ―― だってしょうがないじゃねぇかよ。///////

大切に抱えたは、今や憎からず想う相手。
金色にけぶる額の髪越し、
上からそぉっと覗き見えたる、伏し目がちのまぶたや目許。
白い頬へと淡く落ちるは、睫毛の影に紛らした寂寥の憂いか。
口許が薄く開いてのぼんやりと、
何かしら物想いに耽っておいでの 愛しいお顔を見るうちに、

 「すまんな、情緒のない奴で。」
 「……☆」

そのまま ぐいと引き込まれた腕の中。
その痩躯をもっと間近へと押し込まれた先に、
力強い拍動の響きがあって。

 「葉柱?」
 「〜〜っ、だからっ。////////」

髪からうなじへ、降りて来た手のひらが熱い。

  ―― ああ、なんだ。

言えばいいのによと笑いながらも、
勝手な想いは蛭魔への邪魔にならぬかと思ったらしい、
その武骨な含羞みと気遣いもまた愛おしい。

  寒いのはごめんだ。
  ああ。
  咒弊の閨飾りも、な?
  そんなずぼらはせん。

言いながら…もはや止まらぬか、
もう一方の熱い手が、こちらの衿の合わせを探っており。
もどかしげに肌を探す、
その不器用さがひどく愛しく…切なくて。

  「ん…。」
  「あ。/////////」

顔を上げてのすぐ間近、
首からおとがい、耳元と、
順に舐め上げ、唇這わせて。
見交わす眼差し、否やはないとの色を向ければ





 「…… だからそこで、お前が照れてんじゃねぇっっ!! /////////」
←あっ
 「あわわっ! 封魔の咒は無しだってばよっ!!」






  〜いろいろとスンマセン どっとはらい〜


  *情緒がないのはどっちなんだか。
(う〜ん)
   ルイヒルの日ということで書いてみましたが、
   何よりかにより、吉野の桜に失礼ですね。すみませんでした。

   そろそろ桜も北からの便りが聞かれますね。
   弘前からの中継も観ましたよンvv
   この時期になるといつも思うのが、
   桜の映像ばかり集めたビデオがほしいということですが、
   その前にDVDデッキですよね。
   それと、どうせなら大きい画面のテレビ…と来て、
   はぁあキリがないぞとそこで諦めるのも、もはや恒例でございます。

  めーるふぉーむvv ご感想はこちらへvv

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